ストア派とエピクロス派に学ぶ、不安定な環境でも心の平穏を保つ方法
変化が早く、不確実性の高い現代社会では、先の見えない不安や予期せぬ出来事へのストレスを感じやすいものです。特に、スタートアップのような常に変化し続ける環境に身を置いていると、キャリアや人間関係、将来に対する漠然とした不安に直面することも少なくないかもしれません。このような不安定な状況の中で、どのようにして心の平穏を保つことができるのでしょうか。
古代ギリシャ・ローマ時代の哲学には、私たちが現代社会で抱えるストレスや不安に対処するための、今なお色褪せない実践的な知恵が詰まっています。今回は、ストア派とエピクロス派という二つの哲学から、不安定な環境でも心の安定を保つためのヒントを探ります。
コントロールできること、できないこと:ストア派の視点
ストア派哲学は、「私たち自身でコントロールできること」と「コントロールできないこと」を明確に区別することを重視します。私たちがコントロールできるのは、自分の考え方、判断、欲求、そして行動(徳に基づいた行動)です。一方、他者の意見や行動、自身の健康、富、評判、そして外部で起こる出来事のほとんどは、私たちのコントロールの範囲外にあります。
不安定な環境で不安を感じやすいのは、しばしばコントロールできない外部の出来事に心を乱されるためです。例えば、会社の業績が不確実であること、市場の変動、上司や同僚の評価、あるいは社会全体の動向など、これらは私たちが直接的に変えることが難しい事柄です。
ストア派の教えによれば、これらのコントロールできない事柄に心を囚われるのではなく、自分がコントロールできること、つまり「それらの出来事に対して自分がどう考え、どう行動するか」に焦点を当てるべきです。不安定な状況そのものを変えることは難しくても、その状況に対する自分の受け止め方や、そこで最善を尽くすという行動は、自分自身の選択によって可能です。
不確実な状況下でストレスを感じたら、まず立ち止まり、「これは自分がコントロールできることだろうか、できないことだろうか」と自問してみてください。もしコントロールできないことならば、その出来事自体に過度に心を奪われるのをやめ、自分がどう反応するか、何ができるかに意識を切り替える練習をすることが、心の安定につながります。
内なる充足と穏やかな繋がり:エピクロス派の視点
エピクロス派哲学は、究極的な目標を「アタラクシア」(心の平静)と「アポニア」(肉体の苦痛がないこと)に置きました。快楽を追求すると聞くと享楽的なイメージを持つかもしれませんが、エピクロスが説いたのは、一過性の激しい快楽ではなく、苦痛からの解放によって得られる穏やかで持続的な心の充足です。
エピクロス派にとって、心の安定をもたらす重要な要素は、贅沢品や名声といった外部の物質的なものではなく、内なる満足と信頼できる友人との穏やかな関係でした。不安定な環境では、キャリアのステップアップや物質的な成功といった外部の基準に振り回されやすくなります。しかし、エピクロス派は、これらの追求がしばしばかえって不安や苦痛を生む可能性があると指摘します。
真の心の安定は、自分の欲望を適切に管理し、必要最低限のもので満足すること、そして何よりも信頼できる友人との温かい交流から得られると考えました。不安定な状況下でも、高価なものや社会的な評価といった外部の不確実なものに依存するのではなく、日々の生活の中にある小さな喜びや、身近な人との確かな繋がりを大切にすることが、心の拠り所となります。
不安定さを感じるときは、SNSなどで他者と比較するのではなく、自分が心から楽しめることや、信頼できる友人と過ごす時間を意識的に作ることで、内なる充足感と安心感を得ることができるでしょう。
古代の知恵を現代に活かす
ストア派の「コントロールできることに集中する」という教えは、予測不能な出来事が多い現代において、自分自身の行動や考え方に意識を向け、無駄な心配を減らすための強力なツールとなります。一方、エピクロス派の「内なる充足と穏やかな人間関係を大切にする」という教えは、外部の評価や物質的な成功に依存せず、自分自身の心を満たし、確かな繋がりの中で安心感を得るためのヒントを与えてくれます。
不安定な環境にいるからこそ、外部の不確実な要素に一喜一憂するのではなく、ストア派のように自分の内面に意識を向け、コントロールできる範囲で最善を尽くすこと。そして、エピクロス派のように身近な人間関係や日々の小さな喜びを大切にすること。この二つの古代哲学の知恵を組み合わせることで、変化の激しい時代でも心の平穏を保つことができるはずです。
今日からできることとして、まずは「今日一日で、自分がコントロールできたこと、できなかったこと」を振り返ってみてはいかがでしょうか。そして、身近な大切な人と少しの時間でも心穏やかに過ごす機会を作ってみるのも良いかもしれません。古代の賢人たちの声に耳を傾け、あなたの心の安定のために、その知恵をぜひ活用してみてください。