SNSの「キラキラ」に疲れたら:ストア派・エピクロス派に学ぶ心の守り方
終わりのない比較に疲れていませんか?
現代社会、特にインターネットやSNSの世界では、他者との比較が避けがたいものとなっています。友人や知人の「充実した日々」や成功談、見知らぬ誰かの「キラキラした」ライフスタイルがタイムラインを流れ、私たちは知らず知らずのうちに自分と比較してしまい、焦りや劣等感、自己肯定感の低下を感じてしまうことがあります。特に、変化の速いスタートアップのような環境に身を置いていると、周囲の成功がより強く意識されるかもしれません。
このような、他者との比較から生まれる心の疲れに対し、約2000年以上前の古代哲学、特にストア派とエピクロス派の教えは、現代に生きる私たちにも非常に有効な視点を提供してくれます。彼らの知恵は、外部の評価や情報に振り回されず、内面の平穏を保つための具体的な道を示しています。
ストア派:制御できることとできないことを区別する
ストア派哲学の核心の一つに、「制御できること」と「制御できないこと」を明確に区別し、制御できないことには心を乱されない、という考え方があります。私たちの考え方、判断、願望、嫌悪といった内面的なものは制御できますが、他者の意見、評判、財産、そして体調や寿命といった多くの外的な要因は、私たちの制御の及ばないところにあります。
SNSの世界で考えてみましょう。他人の投稿内容、その投稿に対する「いいね」の数、自分に向けられる他者の評価や反応は、すべて「制御できないこと」に属します。私たちはこれらの外的な要素をコントロールすることはできません。にもかかわらず、私たちはこれらの「制御できないこと」に一喜一憂し、心を疲弊させてしまいがちです。
ストア派の教えによれば、心の平穏を得るためには、制御できないことに心を奪われるのをやめ、自分が制御できる内面の世界、すなわち自分の考え方や行動に集中することが重要です。他人の「キラキラ」した投稿を見て劣等感を感じそうになったら、「これは私の制御できないことだ」と認識し、その感情に深く囚われない練習をすることができます。自分がどのように考え、どのように行動するか、つまり自分自身の価値観や目標に基づいた行動に意識を向けるのです。
エピクロス派:心の平穏(アタラクシア)を追求する
エピクロス派は、快楽を人生の究極の目的としましたが、これは短期的な感覚的快楽だけでなく、むしろ苦痛のない状態、特に心の苦痛がない「心の平穏(アタラクシア)」と身体の苦痛がない状態を重視しました。エピクロスにとって、真の幸福とは、豪華な食事や名声といった外部からの刺激ではなく、内面の平静さから生まれるものだったのです。
SNSでの他者比較は、まさにこの「心の苦痛」を生み出す大きな原因となり得ます。他人の成功や幸福そうな姿を見て嫉妬したり、自分には無いものに焦がれたりすることは、心の平穏を大きく乱します。エピクロス派の視点から見れば、このような比較によって生まれる苦痛は、避けるべきものです。
エピクロス派の知恵は、私たちに「本当に自分にとって価値のある快楽(心の平穏に繋がるもの)」は何かを問いかけます。それは、友人との温かい交流、自然の中で過ごす時間、読書や学習による知的な充足、あるいは単に静かにリラックスする時間かもしれません。SNS上の浅い繋がりや、他者からの評価に依存するのではなく、自分の内面が本当に喜び、心が穏やかになる活動に意識を向けることが、心の平穏を保つ鍵となります。不必要な情報や、比較による苦痛を生むSNSの使い方から距離を置くことも、エピクロス派的なアプローチと言えるでしょう。
現代への応用:SNSとの健全な付き合い方
ストア派とエピクロス派、異なるアプローチに見えますが、どちらも外部の要素に過度に依存せず、内面の平静さや自己の価値に目を向けることの重要性を示しています。現代のSNS疲れや他者比較による悩みに、これらの古代の知恵をどのように活かせるでしょうか。
- SNSとの距離を見直す: ストア派の教えに基づき、制御できない他者の情報に触れる時間を意図的に減らす。SNSの通知をオフにする、利用時間を制限する、特定のネガティブな情報源をミュートするなど、自分が制御できる範囲でSNSとの関わり方を調整します。
- 自分の価値基準を明確にする: エピクロス派のように、自分にとって真に価値のあるものは何かを考えます。他人からどう見られるかではなく、自分自身が何を大切にし、どのような状態にあるときに心が満たされるのかを見つめ直します。仕事での成功やSNSの反応だけでなく、自分の成長、学び、人間関係、健康など、多様な側面に目を向けます。
- 内面に集中する時間を持つ: ストア派の教えに従い、自分が制御できる内面の世界を豊かにすることに時間を投資します。瞑想、ジャーナリング(日記をつけること)、内省の時間を持つことで、外部の情報ではなく自分自身の考えや感情に向き合います。
- リアルな繋がりを大切にする: エピクロス派が重視したように、身近な人との質の高い交流は心の平穏をもたらします。SNS上の薄い関係にエネルギーを費やすよりも、家族や親しい友人との対話を大切にします。
まとめ
SNSは現代社会の便利なツールですが、使い方によっては心の平穏を乱し、不必要な苦痛を生む原因ともなり得ます。ストア派とエピクロス派の古代の知恵は、そのような状況から私たち自身を守るための羅針盤となります。
他者との比較で疲れたら、一度立ち止まり、「これは制御できないことだ」とストア派のように区別してみましょう。そして、「本当に私の心を穏やかにするものは何か」をエピクロス派のように問い直してみてください。古代哲学の実践は、SNSの波にのまれず、自分自身の足でしっかりと立ち、穏やかな心で日々を送るための確かな一歩となるはずです。