穏やかな暮らしのための古代哲学

他人の「いいね」に振り回されない:古代哲学に学ぶ、自分だけの価値基準の見つけ方

Tags: 承認欲求, 自己肯定感, SNS疲れ, ストア派, エピクロス派

SNS時代の悩みと「いいね」のワナ

現代社会において、私たちは常に他者の評価にさらされています。特にSNSでは、「いいね」の数やフォロワーの数が、まるで自分の価値を測る指標のように感じられることがあります。スタートアップのような競争の激しい環境では、仕事での成果や他人からの評価が、自己肯定感に直結しやすいかもしれません。

しかし、他人の評価に心を左右されることは、非常に不安定な心の状態を生み出します。「いいね」が増えれば一時的に満たされたように感じても、減れば不安になったり、落ち込んだりする。他者の反応という、自分の力ではコントロールできないものに、心の平穏を委ねてしまう状態です。

このような現代特有の「評価疲れ」「承認欲求疲れ」に対して、古代哲学、特にストア派とエピクロス派の教えは、揺るぎない心の土台を築くためのヒントを与えてくれます。

ストア派の教え:コントロールできるものに焦点を当てる

ストア派哲学は、「自分の力でコントロールできること」と「できないこと」を区別することの重要性を説きます。私たちの内にある考え方や判断、意図、そして徳性などは、自分自身でコントロール可能です。一方で、他人の意見や評価、評判、健康、財産などは、外部の要因に左右されるため、完全にコントロールすることはできません。

他人の「いいね」や評価は、まさにコントロールできないものに分類されます。ストア派の賢者は、コントロールできないものに一喜一憂せず、自身の内面、つまり理性や徳性を磨くことに価値を見出しました。

もしあなたが他人の評価に悩んでいるとしたら、一度立ち止まって考えてみてください。その評価は、本当にあなたの価値を決定するものでしょうか。あなたがどのような意図で行動したか、どのような努力をしたか、そしてあなたの持つ誠実さや公正さといった内面の質こそが、ストア派が真の価値と見なすものです。

他人の評価は外部の出来事として受け止め、それに過度に反応するのではなく、自分が正しいと信じる道を歩むこと、自分自身の行動や考え方を誠実に律することにエネルギーを注ぐ。これが、ストア派が教える、外部評価に心を乱されないための道です。

エピクロス派の教え:心の平穏を妨げる欲望を見極める

エピクロス派哲学は、心の苦痛からの解放、すなわち「アタラクシア(心の平穏)」を究極の目標としました。彼らは、快楽を追求することに価値を見出しましたが、それは一時の肉体的な快楽ではなく、不安や苦痛のない状態、そして真の友情や知的な探求から得られる静的な心の喜びを指します。

エピクロスは、欲望を「自然的で必要なもの」「自然的だが不必要なもの」「自然的でも不必要でもないもの(空虚なもの)」の三つに分類しました。食べ物や住居といった生存に必要なものは「自然的で必要なもの」ですが、豪華な食事や贅沢品、そして他者からの賞賛や名声といったものは、「自然的だが不必要なもの」あるいは「空虚なもの」と見なされました。

他人の「いいね」や評価を強く求める心は、まさにエピクロス派が手放すべきだと教える「自然的でも不必要でもない(空虚な)」欲望に当てはまるでしょう。このような欲望は、満たされても一時的なものであり、満たされなければ苦痛を生み出します。他人の承認を追い求めることは、心の平穏を乱し、常に不安を伴うからです。

エピクロス派の視点から見れば、他人の「いいね」は心の平穏を脅かすノイズです。真の幸福は、そのような外部からの承認ではなく、質素な生活、気の置けない友人との交流、そして知的な満足といった、より本質的なものからもたらされると考えます。

自分だけの価値基準を見つける実践的なヒント

ストア派とエピクロス派の教えを現代に応用し、「いいね」や他人の評価に振り回されず、自分だけの価値基準を見つけるための具体的なヒントをいくつかご紹介します。

  1. 「コントロールできること」と「できないこと」を意識的に区別する: 他人の自分への評価や、SNSでの反応は、あなたがどんなに努力しても完全にコントロールすることはできません。そこに心を奪われるのではなく、自分がどのような行動をとるか、どのように考えるかという、自分自身で制御可能なことに焦点を当てましょう。
  2. 自分が本当に大切にしている価値観を定義する: 何があなたにとって本当に重要ですか。仕事での成果の「評価」ではなく、その仕事を通じて何を学び、どのような価値を生み出したいか。人間関係での「人気」ではなく、どのような人との間に真の繋がりを築きたいか。静かな時間、学び、創造性、誠実さなど、自分自身の内面にある譲れない価値観を見つめ直してください。
  3. 「いいね」は単なる情報として捉える: SNSの「いいね」は、共感や関心を示す一つの形式に過ぎません。それを自分の価値の証明として過大評価せず、単なるフィードバックや情報の一つとして客観的に捉える練習をしましょう。
  4. 比較をやめる: SNSは他者との比較を容易にしますが、これはエピクロス派が遠ざけるべき「空虚な欲望」や、ストア派がコントロールできないものに囚われる状態を生み出します。他人の投稿を見て落ち込むことがあるなら、SNSを見る時間を意識的に減らす、あるいは「これは他者の人生の一側面を切り取ったものだ」と冷静に受け止めるように努めましょう。
  5. 自分の内面の充足に目を向ける: ストア派の内省や、エピクロス派が重んじた友情や知的な探求のように、外部の承認に頼らない心の充足源を見つけましょう。読書、散歩、趣味、親しい人との会話など、あなた自身の心が静かに満たされる時間を持つことが、揺るぎない自己肯定感を育む土台となります。

まとめ:内なる声に耳を傾ける

他人の「いいね」や評価に振り回されることは、現代社会に生きる多くの人が抱える悩みです。しかし、古代の賢者たちの教えは、外部の不安定な評価に依存するのではなく、自分自身の内面に確かな価値を見出し、自分でコントロールできる領域に集中することの重要性を示しています。

ストア派に倣い、コントロールできない他人の評価に一喜一憂せず、自分自身の思考と行動に責任を持つこと。エピクロス派に倣い、心の平穏を乱す不要な欲望、すなわち他者からの承認を過度に求める心を鎮めること。

これらの古代の知恵を借りて、あなた自身の内なる声に耳を傾け、自分だけの揺るぎない価値基準を見つけていくことが、穏やかな心で日々を送るための確かな一歩となるでしょう。